1980~1990年頃には伝票を搬送するために複管式の気送管システム(※豆知識1)が導入されました。気送管は気送子と呼ばれるカプセルに物を入れて、送風機(ブロワー)の吸引力で管路(専用のパイプ)内をカプセル搬送するものです。複管式とは送信専用の管路と受信専用の管路を設けるもので、連続して送信が出来る優れものです。管路は75Φと110Φの径が多く導入されました。75Φ型は伝票専用となり、110Φ型ではカルテも搬送されています。欠点は毎秒7~8mの速度で搬送し、その勢いを保持したまま受信(着信)しますので、衝撃が大きいということです。しかし、搬送するものは伝票やカルテという紙ですから、音の問題はあるものの、搬送物に対する衝撃は問題になりませんでした。
1990~2000年頃にはカルテ搬送が主流になります。各診療科毎に保管していたカルテを中央で一括保管する傾向が強まりました。これは、複数の診療科を受診される患者の情報(例えば薬の処方内容)を病院内全体で管理することにより、薬の二重投与を防止したり、他科で診断されている症状を確認したりといった安全面で有効であることがその理由です。また、カルテを保管するうえで、専門職が中央で一括管理した方が、分散管理するよりも合理的であるという観点からも、多くの病院でカルテの中央化が推進されたのです。しかし良いことばかりではありません。医師も患者も診察室でスタンバイしているにも関わらず、カルテが現場に到着していないので診察が出来ないという事態が発生してしまいます。そこで威力を発揮したのが搬送システムです。自走台車やカルテコンベアといった搬送システムが導入されました。また、リニアモータを利用した高速なシステムも導入されるようになり、まさにカルテ搬送全盛の時代でした。
一方、病棟での薬剤や診療材料を一括して搬送するには、自走台車やリニアモータでは容量的に足りないことから、小荷物専用昇降機(※豆知識2)やボックスコンベアシステム、大型搬送システムも導入されました。つまり、外来系は自走台車でカルテやX線フィルムの自動搬送を利用し、病棟系は中型搬送や大型搬送で薬剤や診療材料を自動搬送するという適材適所型の導入事例が多くなります。
2001年厚生労働省が策定した「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」と補助金制度が後押しして、電子カルテの導入が盛んになり、カルテを搬送する計画そのものが減少傾向になりました。電子カルテそのものの導入率はなかなか当初考えられていたほどには上がらないものの、病院内の機械搬送の主な対象物は薬剤と診療材料そして検体となってきました。
2000年以降、薬剤や検体が安全に搬送できる大口径(150φ)気送管が主流となります。IDタグ内蔵気送子導入により送信操作もより簡単になり、使いやすくなりました。比較的安価な導入コストがより一層普及を後押ししました。しかしスピードが特長の気送管システムも容量や頻度で搬送能力不足と評価され、院内物品搬送には不十分と考えられるようになりました。
一方、従来の中型搬送や大型搬送は導入コストも高く、大容量一括搬送による病棟での薬剤間違いや患者間違いといったインシデントが起こりやすいため、患者個人単位での搬送が求められるようになります。気送管システムの容量不足、薬剤搬送でのインシデント、この問題を解決したのが2009年新たに登場した「トレイ搬送システム」です。病院で汎用的に利用されるISO規格のハーフサイズ(300×400)トレイを搬送の単位に採用することにより、個人単位の適切な容量を高頻度で搬送できるシステムとして導入が広がっています。
またAIを搭載した「搬送ロボット」の導入も徐々に検討され始めています。まだ病院全体を搬送ロボットが走り回るといったことはありませんが、部分的な運用にはその導入のしやすさから検討が進んでいます。
今後、日本の搬送システムには未曽有の超少子高齢化や生産年齢人口減少という社会環境の中で医療を支える事が求められると考えています。弊社としては、薬剤や検体が安心して運べる事に加え、医療情報システムとの連携等により医療安全に寄与し、かつ労働環境改善につながる新しいシステムを追求して参ります。
豆知識2小荷物専用昇降機
弊社におきましても、今後は「ダムウェーター」の名称は使用せず、対象製品を「小荷物専用昇降機」と致します。